#Dialog 3 「東京オリンピック舞台裏 大会成功にかけるプロの想い」バイリンガルフリーアナウンサー野口美穂さん Vol.1

本日のゲストは、初代Google Mapの声を担当されていた野口美穂さんをお招きしました。

美穂さんは、先日の東京オリンピックではテコンドーの表彰式でフランス語のアナウンスも担当されており、世界各国からプロが集う、オリンピックの舞台裏のお話や、グローバルに活躍する声のプロだからこそ!のお話もインタビューさせていただきました。

どんな話が聞けるのでしょうか、楽しみです。


1. 初代Google Mapの声

川嶋:本日はゲストに野口美穂さんをお招きしています。

美穂さんは「バイリンガルフリーアナウンサー」をされています。
皆さん必ず、美穂さんの声を聞かれたことがあると思いますが、なんと美穂さんは初代グーグルマップの声を担当されていました。

野口:「およそ三百メートル先、左方向です」・・・こんな声でしたね。

川嶋:早速ありがとうございます。すごく頼りにしていました。私はすごい方向音痴なので、グーグルマップを頼りにしながら行動していたのですが、この美穂さんの声が聞こえると、安心していました。

野口:ありがとうございます。

川嶋:美穂さんの声で安心しながら、道案内のナビゲート受けていた方、たくさんいらっしゃると思います。また、今日は、そんな美穂さんをお招きして、オリンピックの裏側の話や、グローバルで活躍する女性としてのメッセージもお聞きしていきたいなと思っています。

野口:よろしくお願いします。

川嶋:最初に自己紹介をお願いできますか?

2. Tokyo 2020 Olympic Games

野口:はい。改めまして、バイリンガルフリーアナウンサーの野口美穂です。

私は国際イベントのMCをメインにしていまして、東京オリンピックでは「テコンドー」の表彰式に、フランス語のアナウンサーとして毎晩会場に入っています(7/26に収録)。それ以外の時間はフリーなので、今日みたいな機会を設けていただいて、お話しできることを凄く嬉しく思ってます。

川嶋:私も凄く嬉しいです。昨日も今日も、昼間はオリンピックを見ていました。

今回は日本人の金メダルも続出で凄いですよね!

野口:すごいですねえ。何をご覧になっていましたか?

川嶋:スケートボード・ストリートです。

野口:そうそう、堀米選手、若い男性がメダルを取りましたよね。

川嶋:先ほど女子もストリートで金メダルをとったってニュースで言っていました。

野口:本当ですか。凄いですね!

川嶋:あと柔道。阿部兄妹はすごかったですね。

コロナ禍での開催という苦労はたくさんある中で、ホスト国として、世界各国のアスリートを迎えて、日本の選手たちのここにかける想い、というところを初日から見させてもらっています。

3. 無観客試合の気迫、ホスト国としての歓迎


野口:そうですね、やっぱりコロナ感染者数が、毎日ニュースで伝えられているところに、リスクを背負って日本に来ようっていうのは、本当にね、凄い気合だと思いますね。

川嶋:そうですよね。現場でご覧になられていても感じます?

野口:感じます。特にテコンドーは一日中やっているのですけど、最後の方になると決勝戦、銅メダル、銀、金っていう風にだんだんもう盛り上がってきます。無観客なので誰もいないですけれど、それでも選手のスタッフが旗を掲げて「わー!いけー!」って。観客の声がないからこそ、ものすごい応援ぶりで。勝った時の、金が決まった時なんかは、もう叫び声が「いやあー!」って、壇上に響くんですよね。その気迫が放送席にもガンガン伝わってきます。


(写真:テコンドー表彰式アナウンスの放送席の様子。)

川嶋:テレビで見ていても、無観客と思えないぐらいの応援と歓声が聞こえる。関係者の方達のこの大会にかける想いを感じますね。

野口 そうですね。やっぱり選手が、無観客の中で試合するって相当緊張すると思います。そこで私たちスタッフには、「なるべく、ホスト国としてウェルカムな感じでいこうね」と通達がでていました。

川嶋:それは素晴らしいですね。

野口:ボランティアさんも頑張っています。

川嶋:私の友人でボランティアをしている人も、このコロナ禍で、日本に来てくださる選手たちをどう温かく迎えられるかが大事って凄く言っていました。

野口:そうですよね。これが配信される頃は、もうオリンピックは終わっていますが、彼らの活躍が残っていくと思うので、是非リプレイでもたくさん見ていただき、改めて東京オリンピックを楽しんでください。

川嶋:ぜひぜひ。今日はこのスペシャルなタイミングで、美穂さんと対談できるので、ぜひ美穂さんご自身が、オリンピックのこの舞台の裏側で、プロフェッショナルとして関わる中で、現場で意識されていることについてもお聞きしたいなと思います。

野口:まず意識しているのは、自分の声で全てその雰囲気が決まるということ。特にフランス語って表彰式のアナウンスではトップバッターなんですよ。

川嶋:そうなんですか!?

野口:そうなんです。フランス語、英語、ホスト国の言語(日本語)の順番です。

4.   オリンピックとフランス語

川嶋:フランス語が最初なのは、どうして?

野口:オリンピックは古代ギリシャが起源と言われていますが、途中で開催されなくなっていたのです。その後、近年になって、フランスのクーベルタン男爵がオリンピック復興を提唱したのがきっかけで、近代オリンピックが始まりました。
そのため、今でも開会式や閉会式、表彰式といった全てのセレモニーでは、彼の母国語であるフランス語で最初にアナウンスする決まりがあります。

川嶋:そうなんですね。

野口:パラリンピックは逆に英語と日本語だけになります。

川嶋:この近代オリンピックの歴史の中で、敬意を表してという文脈がある中で、フランス語のトップバッターで、美穂さんがその声で場を作るというか空気を作る役割をなさっている訳ですよね。素晴らしいです。

野口:表彰式はその栄光を称えてもらう瞬間なので、表彰式のディグニティ(尊厳・気品)を作るのに、どうやって声をだそうかなっていうのは、結構最後まで悩んでいますね。

川嶋:普段の、例えば国際カンファレンスでお話されるのと、今回のオリンピックの大会のセレモニーでお話しされるのって、声の部分で意識されるところに違いはありますか?

野口:ありますね。言語が、私は普段は英語と日本語ですけど、フランス語になると、英語みたいな抑揚があんまりないんです。「Ladies and Gentlemen」は抑揚をつけて言えるのですが、フランス語「Mesdames et Messieurs」はちょっとモノトーンになる。

川嶋:確かに、英語だと盛り上げやすいかもしれませんね。メリハリというか。

野口:抑揚ね。一緒にやっているイギリス人の英語アナウンサーの彼女も結構抑揚が上手なので、そういったコントラストに負けないようにしています。声の演出は私の一番手の役割として気をつけていますね。


(動画:Tokyo2020 Olympic Games テコンドー表彰式 アナウンスの様子)

5.  多様性に富んだスタッフ、プロならではの気遣い、現場力

野口:あとは、オリンピックは国際イベントの頂点みたいな大会なので、集まるスタッフの国籍が物凄くバラエティーに富んでいます。

総合プロデューサーの人たちとは英語でコミュニケーションをとるのですが、何か言われた時に、すぐ返答できるか。結構殺気だった表彰式の現場で、質問された時に心配させないように返答できるか。瞬発力をつけないといけないというのはありますね。

川嶋:なるほど。お聞きしてすごく面白いと思うのが、国際的なイベントで関係者も多様な方達がいらっしゃる中で、プロ同士が協力し合うためにお互いの国の文化差も踏まえつつというベースがあった上で、プロとしての「現場力」がとても問われるのだなと思いました。

野口:まさにそうですね。

川嶋:誰が表彰されるか直前に決まるわけですよね。

野口:コンテスト系は本当にそれが一番怖いです。

川嶋:そうですよね。だから原稿を何週間も前に作っておいて、練習するわけにもいかず。表彰式で読み上げる国と名前は直前に決まってくるのですよね。

野口:そうですね。誰が勝ったかは、みんなで情報共有しているんですけど、しっかり読み合わせをしますね。絶対これであっているよね、とダブルチェック、トリプルチェック。あと、読む順番、国と選手がちゃんと一致してないといけないですし。

川嶋:怖いですよね。名前だけ見ても、どの国の人か分からないケースもありますよね。

野口:あとはそうですね。プレゼンターが国際オリンピック委員会の中の誰かが来るのですが、その誰かがなかなか決まらなくて、結構ハラハラします。

川嶋:そのメンバーが決まらないと、お名前とか、役職とか・・・ですもんね。

野口:メダリストは、オリンピアンと言う必要がある人もいて、それをスキップしちゃったら、失礼になるし。

川嶋:そうか、オリンピアンの人もいれば、役職のある大会関係者もいる。

野口:あと、発音がちゃんとしているかも大事です。

川嶋:重要な役割ですよね。

野口:女性でタイの方がいらっしゃって、アルファベットの記載はあるものの、全く読み方が見当もつかない人がいたのです。その時私はタイにいるタイ人のお友達に、「これを発音してボイスメッセージで送って」って頼みました(笑)。

川嶋:発音した音声を送ってもらう?

野口:そうです。

「タイーなんとかかんとかタイー」みたいな。すごく参考になりました。

川嶋:そうやって、ご友人やネットワークも活かしながら、ギリギリまでご準備されているのですね。

常に分刻みで動いてる現場だから、皆さんが殺気立つというのは悪い意味ではなくて、タイムプレッシャーがあり、間違いは許されないという、世界の頂点の大会だからこそ起こってる、プロフェッショナルだからこその緊張感。その空気感ですよね。

関係者のメンタルのコンディションも感じた上で、余計な心配やストレスを生まないような受け答えを、プロデューサーやバックヤードのメンバー間でもしてるという、配慮をされてる美穂さんは流石だなと思いました。

野口:ありがとうございます。

6.  明確な目的意識は、国境を越える

川嶋:人が作るものだから、そこにいる人たちのムードといいますか、感情を含めたムードって、伝播するし、仕事に現れるだと思うので、お互いがそこを意識し合って、いい状態を作ろうとする。とても大事なことだと思います。

野口:そうですね。目的意識は物凄くみんなはっきりしていて、「これを成功させるぞ」っていうところなので、もう全然変なしがらみとか、足の引っ張り合いとかは全くないので、ものすごく仕事がやりやすいですね。

仰っていただいたような、余計な心配、プレッシャーをかけないように、自分が何ができるかっていうのを全力で考えて、というところは物凄く特殊な、一分一秒みたいな現場だからこその醍醐味でもありますね。

川嶋:プロフェッショナル同士が全力で掛け算で、一つのものを作っていこうとするから一致団結して素晴らしいものができる、みたいなところ、すごくありますね。

野口:私、これが終わると物凄くロスになると思います。

川嶋:聞いているだけで私もロスになりそう。

このひとつの物事に向かう姿勢って、実はオリンピックという大きな舞台だけではなくて、実は私たちの仕事にも置き換えられるとお聞きしてて感じました。

オリンピックっていう大きな舞台に関わることは、自分からはとても遠くに感じられる方もいらっしゃるかもしれないけれど、今、美穂さんがお話していただいたこと、相手への心配りや、目線、マインド、コミュニケーションのコツなどは、十分日頃の仕事でも活きるお話ですよね。

みんなが同じ目的のために、自分ができる最大の力を出そうとする。どうやって貢献できるか、みんなが力を出しあって一致団結して、これを達成しようとする、という姿勢は、どの仕事でも同じですよね。

その上で、やっぱり凄いなと思うのは、オリンピックでは、ここで初めて会った人同士でそれをしている。
違う国の人同士、言い換えると、競技の中では、競い合ってる国同士でもありますよね。
けれど、「この大会を成功させる」という最上段の目的に向かって初めて会った多様な人たちが力を合わせていこうとするっていう。その現場にいらっしゃるっていうのは本当に素晴らしいことだと思います。

野口:そうですね、本当光栄なことですよね。私たちが、生きている間は恐らくオリンピックは日本ではないだろうと思うんですね。一生の思い出になりますね。

川嶋:本当に素晴らしい。

野口:ありがとうございます。

川嶋:オリンピックの最中に、こうやって対談にいらしていただいたことも、その裏側で今まさにリアルタイムで感じていることも、皆さんにこうやってシェアをして下さいことも、すごくありがたいなと思います。後半は、「女性リーダーと声」をテーマにお話お聴かせください。美穂さん、ありがとうございました。

後編に続く。
後編では、女性リーダーと声、「日本の女性の声は世界で一番〇〇」という声のトリビアなどインタビューさせていただきました。
公開をぜひお楽しみに!


野口美穂 プロフィール


Location:岐阜県岐阜市
Education:南山短期大学英語科卒
Languages: 日本語(母国語), 英語(通訳レベル), フランス語(日常会話)
Skills: ハワイ大学通訳翻訳研究センター認定日英逐次通訳者、
英検1級、
TOEICスコア985、
フランス語検定準1級、
全国通訳案内士 (岐阜県第EN00035号)
その他
ミセスグローブ2017日本代表
元愛知国際放送アナウンサー
岐阜県池田町親善大使
Roger Love Method Coaching認定ボイスコーチ
VOICE YOUR DREAMスピーキングアカデミー主宰
VOICEOVER JAPAN共同代表
Youtube “Voice Your Dream with Miho”

Profile:
高校在学中AFS交換留学プログラムで渡米。大学ではゼミで専攻したオーラルインタープリテーションを通じ、英語のスピーチコミュニケーションの楽しさと魅力に没頭する。その後、外国人付秘書、電子部品メーカーの海外営業や公共財団での通訳、また国際会議の語学スタッフやフリーの通訳ガイドとして活動し、2001年にワーキングホリデーで渡仏。帰国後、愛知国際放送RADIO-i FMのバイリンガルニュースキャスターや番組パーソナリティーを務める。
東京オリンピックの表彰式フランス語アナウンサーや、G7伊勢志摩サミット、ユネスコ世界会議など閣僚レベルの会議の英語司会、またカンヌ映画祭、東京国際映画祭をはじめとする民間イベントの日英仏マルチリンガルMCを担当し、コロナをきっかけにオンラインイベントの司会も手がけている。2016年にはスマートフォン向けGoogleマップアプリのカーナビ音声のナレーターとしてツイッターやYahoo!ニュースで話題に。2017年にはミセスの国際ビューティーコンテストMRS. GLOBEの日本代表として中国深圳での世界大会に出場した。


多様性の時代に、本質を見る「知性」と「感性」をはぐくむ。
大人の女性たちのためのコミュニティ、オープン間近

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